PRINCESS KNIGHT 第一章 2

はい、第二話です。てか、ホントこんな更新頻度速いのは今だけですよーw 来週ぐらいから一気に止まる予定ですから(マテw


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  シルバーランド王家の離宮は周囲に豊かな緑と美しい湖を備え、日々の公務の合間に静養する王族たちの憩いの場となっていた。その離宮内に設けられた王家専用の庭園へと続く坂道を下りながら、まだ20歳前後と思われるメイド服姿の女が一歩前を歩く男に語りかけていた。

「今日もサファイア『王子』はお妃さまとお過ごしなのですねぇ」
  語りかけられた男の方はというと髪もほとんど白くなっており、顔にもそれまでの彼の人生経験を思わせるような深い皺が刻み込まれている。その男は悠然と応じる。

「仲がお宜しくていいことじゃて」
「でもぉ、王子くらいの年頃の男の子は普通あまり母親と一緒に居たがらないものじゃないですかねぇ?」
  そのメイドの疑問に対しても男はあくまでゆっくりと応じた。

「何、それだけお優しい御子なのじゃよ。サファイア様は…」
「そうだとは思いますが…」
  尚も、疑問の言葉を発しようとするメイドに向かって男は告げる。

「お主もまだ仕事があるであろう。早く戻るぞ」
「はい…あ、侍従長様。ちょっと気になったことがあるのですが…」
「何じゃ?まだ何かあるのか」
  侍従長と呼ばれた男は面倒そうに後ろを振り返りながら問うた。

「先ほど、お妃様のお部屋にお召し物をお持ちした際に見慣れぬドレスがあったのですが、あれはどなたのものなのでしょう?」
  そのメイドの発言にわずかに眉を上げた侍従長は、三度悠然と答えた。

「王妃様のお部屋にあったのだから王妃様のお召し物なのだろう」
「でも、お妃様がお召しになるにはちょっとサイズが小さかったですし、意匠もまるで若い娘が着るようなもので…」
「なら、きっとどこかの貴族の娘にでも下賜されるおつもりなのではないか?」
  今度はメイドの言葉を遮るように侍従長は答えた。

「あぁ、なるほど。あれ…でも確か胸元に王家の紋章らしきものがあったような…」
「お主、勝手に王妃様のお召し物に手を触れたのかっ!!」
  それまでの穏やかな口調からは想像できないような剣幕で侍従長はメイドを怒鳴りつけた。

「あの、あまりに美しいドレスでしたのでつい…申し訳ありませんっ」
  そう言うとメイドは慌てて頭を下げた。そこで侍従長も自分が思っていた以上に大声でメイドを怒鳴りつけていたことに気づいた。

「いや、なに…以後気を付ければよい。が…」
  すると侍従長は次に声を一段低くし、射るような視線でメイドを見つめるとこう言った。

「お主も長く王宮に仕えたいと思うなら、いらぬ詮索はせぬことだ。…よいな」
「は、はい…」
  この時メイドは先ほど怒鳴られた時以上に、背中に冷たいものが流れる感覚を味わっていた。

「…ほれ、ワシのことは良いから先に仕事に戻りなさい」
  既に普段の口調に戻った侍従長はメイドにやんわりと命じた。
「はい、失礼いたします!!」
  そう応じるとメイドは逃げるようにしてその場から去っていった。
  

  侍従長は足早に去るメイドの後姿をみやりながら自嘲するようにつぶやいた。

「やれやれ、あの程度のことで取り乱すとはワシも老いたかの…」
  そう言うと侍従長は丘の上、王家の庭園のある方向を見上げながら一人思うのであった。

  
  −お辛いのは何よりも王妃様、そしてサファイア様ご自身であろうな…。

  
  この侍従長もまたシルバーランド王家の抱える重大な『秘密』を知る数少ない人物の一人なのであった。